練習試合後、次の大会に向けたミーティングのため、帰りが遅くなった。
冷たい空気がはりつめた中、一は友人と歩いていた。
「お前青春してんな~」
「あー、なんだよそれ」
一の肩にわざとらしく手をおいて、友人は笑った。
うんうん、と一人で納得するように頷いている。
「お前のいつも余裕な笑顔がムカつくぜ!」
「んなことないって」
逆に笑顔で話す友人につられ、一も笑う。
「幸せいっぱいなんだろ~?お姉さんへのお土産まで持ってさ」
一は右手に持つコンビニ袋を少し丁寧に持たねば、と持ち直した。
中身は悠里の好きそうな甘いデザート。
いちごを使った新商品で、コンビニに寄った時反射的に買ってしまったのだ。
おいしいものを食べる時の、悠里のゆるんだ表情を思い出して、
一は小さく噴き出した。
スプーンを握りしめ、幸せな顔をする。
その様子が柔らかな小動物を連想させる。
「おい、自分の世界に入ってんじゃねーよ!」
「あ、悪りぃ。やっぱ俺幸せだ」
慌てたように突っ込んだ友人に、一は素直に答えた。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
玄関で靴を脱いでいると、悠里が出迎えてくれる。
暖かい部屋に、普段ならしない独特の匂いがした。
「悠里、何飲んでんの?」
原因は悠里のもつカップからで、一は一口飲んで、考える。
「変わった匂いだな。前にバカサイユで飲んだことが・・・名前なんつったかな。
あぁ思い出した“ベンジャミン”だ!」
「“ジャ”と“ミン”は合ってるわね」
悠里が苦笑いをする。
正解はジャスミンよ、と笑いながら一の分を準備し始めた。
一がソファに座り、悠里がカップを持って戻ってきた。
「さんきゅ。あ、コレ、お土産」
「あら、なあに?」
コンビニ袋を手渡す。
中を確認した悠里はあっ、と顔を緩ませる。
この顔だよなー、と一は思う。
「ありがとう一くん!この新商品食べたかったの!」
本当に嬉しそうに笑う悠里のため、一はソファの隣を空ける。
悠里は早速デザートを開け、一口目を一の口に運ぶ。
「はい、あ~ん」
無意識にやっているのだろう。
指摘したら赤くなりそうだ、と一は素直に口を開けた。
甘くておいしい。
続いて悠里も口に運ぶ。
先ほどから緩んでいた頬がさらに緩み、赤い舌が見え隠れする。
ちょこちょこ悠里が一の口に運び、一が断りを入れるまでそれは続いた。
「なんか、一くんってリスみたい」
「え?」
急な悠里の発言に一は目を丸くする。
「前に一くん、私のこと小動物みたい、って言ったことあったけど、一くんはリスみたいだなって思ったの」
「俺がリス?」
よりによって、と一は頭を捻る。
デザートを持ったまま、悠里はそういうところが、と笑う。
「綺麗な茶色の髪もそうだけど、たまに悩んでる様子とか、甘いもの食べる瞬間とか。
なんだか、小さく見えるというか、可愛く見えるというか・・・」
下を向くように話す悠里の横顔がとても綺麗で。
男の子は可愛いって言われても嬉しくないわよね、という悠里の唇を掠めとる。
「リスだって強いんだぜ、お姉さん?」
愛しい小さな体を抱きしめながら、一はゆっくり目を閉じた。
やっぱり、幸せだ。
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