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「 Lose-Lily--veterinarian--anotherSide 」

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Lose-Lily--veterinarian--anotherSide

2008.12.13 Saturday 22:22

Lose-Lily--veterinarianの過去話になります。
先に動物病院に行っていただけるとよいかもです。





「俺に考えがあんだけど」


いつもと変わらぬ笑顔で扉を開けた司令塔に、
選手達も指導者達も驚きを隠せなかった。


この日のスタジアムは超満員だった。
それもそのはず、今日は日本代表チームのホームでの決勝戦なのだ。
試合前から相当の盛り上がりを見せ、国内外問わず報道陣も集まっている。


「よっしゃ、これでいこうぜ!」


司令塔である一の声が、ミーティングルームに響いた。


「あの、キャプテン、本当に大丈夫ですか?」

「なんだよ、俺の作戦が信用できないのか?」


心配する後輩をよそに、一はいたずらに笑う。


「まぁ草薙が決めた事だ。しっかり走れよ」


監督の言葉にハイッ、と返事をして選手達は部屋を出て行った。



アップのために選手がグラウンドに姿を現すと、スタジアムのテンションはさらに上がった。
一はベンチコートを羽織ったまま、軽い準備運動をした。
念入りに体をほぐした後、コートを脱いでグラウンドを横切るように走り、
ベンチの斜め向かい側の観客席を少し見上げてから戻る。
プロになってからかかさず行うことであり、ファンの間でも知られたものとなっていた。



――ねぇ、今日草薙選手出るの!?
  えーっ!最近レギュラー外されてたから微妙じゃない?――



離れた所から聞こえる、雑音の中の微かな会話を、一は苦笑して聞いた。


正式な入場の前、一は携帯電話を片手に急いでいた。


「あーっもう、やべぇ、時間ねえ!!」


「草薙!!」


監督に急かされ、メールを打ち終わった携帯を半ば投げ出すようにして、
一はスタジアムへ入ることとなった。



大規模な入場セレモニーを終え、前半戦が始まった。
選手紹介で、まず歓声が起こった。
掲示板に映し出されたのは、キャプテンである一の名前だった。
代表の司令塔でありながら、この数ヶ月間スタメン出場をしていなかったからだ。
グラウンド内で仲間に笑いかける一の姿は、久方ぶりのものだ。


キックオフと同時に真剣な表情に変わる。
相手はFIFAランクでは格上だから、苦しいだろうなと一は唇を噛んだ。




でも一度決めたことだ。

しっかり見ててくれよ。




サポーターの必死の応援も空しく、前半途中で既に相手のペースになりつつある。
なかなか攻めに転じることができない。



ちょっとぐらい、誰かミスしねぇかな――



走りながらそんなことを思う。





勉強に、近道なんてありません!





いつも一生懸命だった彼女を思い出す。

あぁ、悠里もいっつも走ってたな。
俺が逃げても逃げても追ってきて。
たまにコケてひどい格好になって。

走りながら、思わず笑みがこぼれる。
大きく息を吸って、気を取り直した時、前半終了を告げるホイッスルが鳴った。


一はベンチでドリンクを片手にバッグを漁る。
携帯電話を開き、少し確認をしてまたバッグに投げ込んだ。


あー、なんか緊張してんな俺。


自分でも感じる焦燥に似た違和感。
元々あまり緊張しない性格だからこそ、鼓動が余計に早く感じる。


「うしっ、本番だぞ。やってやんぜ!」


景気づけに頬をバシッと叩く。
そして、細い鎖のネックレスを首につけた。





一君ならできるわ、






いつだって自分を励ましてくれた。
いや、今までもこれからも信じてくれる。


一はコートに戻って行った。



後半戦の開始直前、歓声というより、黄色い悲鳴がスタジアムの一角から上がった。
それは日本ベンチの向かい側の観客席からのもので、
思わず選手もそちらに目をやった。


現場カメラの映像が巨大スクリーンに映し出されたとき、
再び悲鳴が湧き上がる。


そこには大会のスポンサーである大会社の社長をはじめとした、
美麗な男性が5人立っていた。
肩で息をしている者や、不敵に笑う者など様々であるが、
社長とプロバスケットプレイヤーの間は空席になっていて、あと3人は彼らの後ろに
座った。
彼らが全員座り終えたと同時に、ホイッスルが吹かれた。


後半戦に入ってからの日本の動きは、まるで違っていた。
前半戦が嘘のように、綿密な計算の元にそれぞれが動いている。
特に活躍を見せているのが一だった。


司令塔とし、的確な指示を出しつつ、不意を突いて自らも得点に絡む。
相手の虚をつき、あっという間に一が1点をいれた。

前半で体力を温存していたため、まだ余裕がある。
最初から賭けようと決めていたので、仲間内の連携のうまくいっている。

しかし相手も強国、一筋縄ではいかなかった。
巧みに戦法を変えて対抗してくる。
激しいマークにあい、一は転倒し、FKのチャンスを得た。
そしてこれを、一はしっかりと決める。



「まだだ。まだ足りねえ!」



大きく声を上げる。
自分に誓ったのはあともう1点。

後半ももう残り時間がなくなり、ロスタイムに入った。
一は全力で走り続ける。



「っはぁ、はぁ・・・」

体力はある。しかしタイミングがない。
次第に焦りが募る。







約束、したんだよ、

ぜってぇ決めるって言ったんだよ。






「俺にボールまわせ!!」



もう読まれている。それを構うことなく、一は走りこんでいく。
眼前に相手DFとGKを捉え、目を細める。





一くんならできるわ、

あの後悠里はなんつった?







、私は知ってる







目を見開く。
全ての隙間を縫ったような軌道を描き、
ボールはネットに吸い込まれた。


そして間もなく試合終了となったが、一は特に何も聞こえていなかった。
仲間と喜びあうのもそこそこに、観客席前に走る。


親指を立てて腕を上げると、5人の男性陣が同じ様に腕をあげ、笑った。


「ん?なんだアレ」


そこで一は空席に置かれた何かに気づく。
いつも彼女の特等席だったそこには、小さな額縁に守られた若い日の7人の姿があった。


遠目に見て、一は最後にもう一度旧友に笑いかけ、踵を返した。
すぐ報道陣に囲まれる。


「草薙選手っ!ハットトリックおめでとうございます!!」
「これは国際試合では3回目となりますが今の心境は」


「ちょっと貸してください」


口々に追い立てる報道陣の前で、一は一人からマイクを奪った。
巨大スクリーンに一が映し出される。




「えーっと、どうもー草薙です。俺、今日で引退します」





一瞬スタジアムが静まり返った。
刹那、旧友は全員大笑いだった。



「ナギィ~、さすがじゃねェの!」
「ハジメのやつ、今日の試合が最後だなどと、急にMailをしおって。
俺はAlways be pressed for timeだというのに」
「ハジメが決めたんだもんね。きっとセンセも応援してるよ!っていうか、
瞬はよくこれたね~?」
「あぁ。急いでタクシーなんて割に合わない乗り物を使ってしまったがな。
草薙の引退試合だ。文句は言えないだろう」
「僕は・・・・今日、こんな予感してた」




たった一言二言を残し、一はベンチに向かい歩き出す。
何よりニカッと笑うその笑顔に秘められた意志は固い。


まだしばらくマイクが向けられるのかと、一は一人で苦笑いをした。。
しかし、バッグから覗く携帯電話の画面でほほ笑む二人の姿を見て、
それもしょうがないな、と笑った。





「悠里、ほめてくれんだろ?」









もう、甘えんぼなんだから







一人呟いたはずなのに、確かに悠里の声が聞こえた気がして、
笑顔なのに勝手に涙が頬を滑り落ちていった。
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