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「 Lose-Lily--gym-- 」

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Lose-Lily--gym--

2008.11.16 Sunday 23:03

清春編になります。体育館で、思うこと





館内は、試合前にも関わらず異常な熱気に満ちていた。
観客席はすでに埋まり、立ち見も沢山いる。

「は~、あっちぃなぁ・・・」
広い体育館内は蒸し暑く、鞄の青いタオルに手をのばした時だった。
「あのっ!!」
ふいに声をかけられ、タオルはそのままに振り向くと、興奮した様子の若い女性が立っていた。
「あの、仙道選手ですよね?私、仙道選手のファンなんです!握手してください!」
「あ、はい」
逆にこちらが緊張するくらい、真っ赤になった女性の手を握る。
手が離れてなお、女性はずっと赤く、笑ったままだ。
「清春選手の試合で、仙道選手に会えるなんて、
本当に嬉しいです!ありがとうございました!」
大声でお礼を言った女性は、ばたばたと走っていってしまった。
呆気にとられていると、あちらこちらからざわめきが起きているのに気がついた。

――仙道?観客席にまさかなぁ、
――え、本物っぽいよ!サインもらわなきゃっ

「え?あ、ヤバ・・・」
そして俺はすぐに大勢の人に取り囲まれてしまった。


「はぁ、疲れた・・・」
思わず小声で嘆いた。
結局、沢山の人間と握手をし、テレビ局の取材陣にまでカメラを向けられてしまった。
(サインは時間がないからと断った)
試合が始まる1、2分前になりやっと解放されたため、
観戦前にしてすでに疲れている。
超満員の観客席。
日本のバスケットボール界を牽引してきた男の最後の試合がまもなく始まる。


高校の体育館でのプロの公式試合とは、前代未聞だそうだ。
本人の要望と、この私立学校の理事が許可をしたのだからあっさり開催されたのだが。
「まぁ、翼さんのおかげだろうな」
あの銀髪のちょっとずれた紳士を思い浮かべる。
世界規模で展開する大グループの権力者が、父の友人なのだから、ありえる話だ。
父の引退試合と聞いて、電報をくれた人達を思い浮かべる。
大グループの社長に、現役プロサッカー選手。
メジャーロックバンドのリーダーに、デザイン・メイクなんでも請け負う芸術家。
それに国から召集がかかることもある、モデル兼科学者。


本当にぶっ飛んだメンバーと父は一緒にいた。
でも彼らいわく、一番ぶっ飛んでいるのは清春、だそうだ。
俺も息子ながらそう思う。


ふと気付くと、もう父の対戦チームの選手は入場し終わっていた。
アナウンサーが次のチームの選手の名前を呼ぶ。
通常しないことだが、エンターテイメント性重視なのか、一人一人間をとってコートに入る。
レギュラーメンバーの中で、最後に父の名が呼ばれた。
「・・・・4番、仙道清春」
一瞬にして大歓声が起こる。
瞬間、鳥肌がたった。
客席すべてを巻き込み、空気が変わった。
いつもと変わらず、にやりと笑う清春は軽くコート内を走りセンターに並んだ。
そこかしこで仙道コールが聞こえる。
開始のホイッスルが鳴った。


もう肉体的にはとうにピークを過ぎているはずなのに、清春の動きは素早く滑らかだった。
足りない身長をいかしてのコンパクトであり、繊細なプレイ。
そうかと思えば、大胆な動きで緩急をつけ、相手の足を止める。
スタミナは持たないのかもしれない。
だが、清春のプレイはデビュー時と変わらず観客の目を引き付けるのだ。
清春の動作ひとつひとつに歓声が上がる。

「すげぇ」
こんな父に憧れて、同じ道を選んだ。
息子に対しても決して手加減をしない父は意地悪で、でも格好良かった。
―――もう、素直じゃないんだから、―――

俺が泣きそうになると父を諫めていた母は、もういない。


――ピーッ!!
前半が終了した。点差はあまり開いていない。
ざわめきが少しおさまり、がやがやとした音が響く。
清春はベンチでタオルを頭からかけ、じっとしている。
普段なら観客席にアピールをしたり、なにか仕掛けをしていたりしたのだが、この試合ではないのかもしれない。(実際に観客席で爆竹が破裂したことがあった)
遠目から見ても、父が疲れているのがわかった。
笑顔が違う。

―――清春くんはね、いつも私たちを見て笑ったりするけど、心から笑えないときは、決して目を合わせてくれないの。だから、支えてあげてね―――


あの日の母の言葉がよみがえる。
トリックスターは健在だ。歳がなんだ。
俺の父は仙道清春だ!


「おい、仙道清春!!」
俺は立ち上がっていた。周囲の視線が集まるのがわかる。
「もうジジイだから、足腰弱ってんじゃねーのか!ピンクのタオルで泣いてんじゃねーよ!」
広い体育館内が静かになっていた。
突き刺さる視線を浴びながらも、俺はまっすぐ父を見据えた。
清春がゆらりと立ち上がり、
「うるっせェんだよガキィ!!」
俺よりはるかに大きい声が静寂を突き破った。
「てめェこそ、オレ様のプレイ見てビビってんじゃねーのかァ!?」
「んな訳ねえよ!」
「顔が真っ赤っ赤だぜェ?」
キシシッと父が笑った。
再び大歓声が起こる。
タオルを片手に清春はアップを始めた。
俺は自分の汗を拭うために鞄に手を伸ばし、青いタオルを手に取る。
どこかスッキリした様子の父の後姿を見て、ゆっくりと息を吐いて、思った。
母譲りの素直な性格を活かし、普通のキャラでいたのに、壊してしまった。
まぁ根は父に似て、口が悪いのだからしょうがない。仙道を継がなければ――なんて。


後半戦が始まった。
最初は好調に動いていた清春も、だいぶ足が動かなくなってきた。
真剣な表情の中に焦りが見えるが、点差はやはり五分五分のままだった。
ラスト1分をきり、電光掲示板の表示が細かく、そして速くなった。
最高潮の歓声の渦の中、清春のチームは逆転をかけ、相手ゴールに向かってボールをつないでいく。
しかし、その先頭集団に清春の姿はなかった。
チームメイトより2歩も3歩も後ろの距離に立っている。
体力の限界か、と人は思ったに違いない。
―――違う!
俺が判断した瞬間には仲間からフェイントのパスを受けた父が、センターサークル近くで目を閉じていた。
一瞬の静寂。
シュートを打つ前、清春は目を閉じ、ボールを額にあてた。
あまりにもゆっくりとした、落ち着いた動作はその場にそぐわず、誰も動けない。
そして絵になるようなフォームで、放った。
綺麗な放物線を描く前から、入るものだと決まっていたように、ボールはゴールネットに触れることなくポストを通過した。
床にはねると同時に、試合終了のホイッスルが鳴った。


異常なまでの歓声と熱気が戻ってきた。
清春コールが起こる。
清春はすぐにコートサイドの自分のタオルを首にかけ、再びコート内に戻った。
センターサークルに近づき、バタンと仰向けに寝転んだ。
周りは興奮した様子でカメラを持ち出していたり、声をかけたりしている。
肩で息をしている清春は苦しそうに顔を歪めたが、すぐに力の抜けた笑顔を見せた。
「母さん・・・」
思わず声が漏れた。
俺の好きな父の笑顔。母さんに向けられていた笑顔だった気がした。
ややあって、

「悠里ィ!!ラストシュートだ!外す訳ねェだろ!!」

清春の声が館内に響いた。
俺の頬に、一筋滴がつたった。
そんなに悲しいわけでもないのに、なんだか苦しかった。
タオルをばさっと胸にかけた父は、寝ころんだまま満足げに目を閉じた。


こんな父に憧れてバスケを始めたんだ。
俺の目標とする人間は、すげぇぶっ飛んだ父親だった。
でもって、誰より母のことが大好きだった。
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